楽校コラム

日本カボチャは日本産ではない。

2014年5月3日 17:37

  古くからやっている日本料理屋や蕎麦屋などに行くと、野菜が数種類、筆で描かれて、淡く色をつけた色紙が壁に飾られていることがある。
「仲良きことは美しき哉(かな)」
という文句が添えられていて、今でいうと相田みつをの色紙みたいな感じで、日本中のさまざまな店舗や家庭に飾られ、人々になじみがあった。これは小説家の武者小路実篤(1885?1976)が書いたもので、実篤の理想主義を表した文句だという。野菜はタマネギやジャガイモ、ニンジンなどが描かれたが、ほとんどの場合、中心に置かれているのはカボチャである。カボチャのあの形は、日本画に実によくマッチするらしい。
表面に光沢がなく、縦に深い溝が刻まれているこのカボチャは英語でスクワッシュと呼ばれる種類で、日本カボチャ(Japanese Squash)というのが正式名称。なら日本産かと思うと、実は鉄砲伝来のころ(16世紀半ば。織田信長がまだうつけ者の吉法師と呼ばれていた頃だ)、ポルトガル人によって伝えられた野菜だ。初めて見る不思議な形状の野菜を見た日本人に何と言うものなのか、と訊ねられたポルトガル人たちは、「これはカンボジアの瓜である」 と答え、日本人はそれをそのまま“カンボジア瓜”と名前にし、やがて瓜の字がとれてカンボジアだけになり、これが訛ってカボチャとなった、と言われている。これは昔から有名な雑学なので、日本人にはカボチャの原産地がカンボジアだと思い込んでいる人も多いが、実はアメリカ大陸が原産地である。日本に伝わって後、日本料理に合うように改良が加えられたので、日本カボチャと呼ばれるようになった。煮物などにしたとき柔らかく、また醤油などの味つけに適するよう、水分が多めで甘みが少ないのが特徴である。

……では、今の君たちが食べているのがこの日本カボチャかというとそうでなく、明治時代に入って来て北海道中心に栽培された“西洋カボチャ”である、というからことは複雑だ。武者小路実篤の色紙に描かれる日本カボチャに比べ表面に光沢があり、でこぼこがあまりない。ほくほくした食感で甘みが強く、バターなどを使った料理に合う。
文明開化で西洋料理が普及するのに従い、日本人はこちらの西洋カボチャを好むようになっていった。オーストラリアやニュージーランドではこの西洋カボチャを“カボチャ”・スクワッシュ(kabocha squash)と呼んで、日本特産としている、というからもう、わけがわからない。ここまで複雑になったのも、カボチャがおいしく、栄養価に富み、世界中のあちこちで食べられ、栽培され、品種改良されている野菜だからだろう。
……ところで、先ほどからカボチャの英語名をスクワッシュと書いている。英語の授業で使う辞書にはカボチャのことをパンプキン(pumpkin)と書いてあるぞ、と不審に思っている諸君もいるだろう。……実は、パンプキンもまた、日本でいうカボチャとは種類が違う。毎年10月になると街に絵があふれる、お化けの顔をくりぬいたオレンジ色の大きなカボチャ。パンプキンというのは正確にはあの種類だけを指す。だから、日本でスーパーに並んでいるカボチャをパンプキンというのは本当は間違いなのだ。ただし、これも世界中でごっちゃになっており、アメリカでは日本のカボチャである西洋カボチャ(実にややこしい)を“ジャパニーズ・パンプキン”と呼ぶという。……まあ、どう呼ばれようと現在、世界でカボチャが愛されていることは確かである。めくじらを立てるのはよそう。“仲良きことは美し”い、のだから。

『日本のカボチャは「パンプキン」ではない?』
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2800B_Q3A930C1000000/

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