楽校コラム

「医者が患者の胸を叩いて診察する打診法は酒屋が樽のワインの残量を見る方法が原型」

2014年10月22日 17:59

先に「重さの単位“トン”の語源は樽をトン、と叩いた音」という雑学を紹介したが、この、樽を叩いてその中に入った酒(液体)の分量を量る、という方法は、その後意外なことに応用された。それは医学である。
オーストリアのグラーツで生まれた医師、ヨーゼフ・レオポルド・アウエンブルッカーは18世紀半ばに、患者の胸壁を指で叩いて、その響きで胸部の病気の有無を診る「打診」法を開発した。当時、結核が最も深刻な病気だったが、これは進行すると肺に血や膿がたまってくる。健康な肺は中に空気がいっぱい詰まっているのでよく響く音がするが、肺や血がたまってくると、重く鈍い音がする。レントゲンやCTスキャンなど、体の内部を見る方法がなかった時代には、これは非常に有効で便利な方法であった。このやり方はやがてフランスの医師の間で大きく広まり、世界に浸透していった。現在でもなお、副次的な診察方法として用いられている。
アウエンブルッカーがこの方法を思いついたのは、自分の子供時代の記憶からだった。
彼の実家は宿屋をやっており、父親は並んだ酒樽を(当時の宿屋はだいたい酒場も兼ねていた)毎日トントンと叩いては、どれだけ樽の中に酒が残っているかを確かめていたのである。アウエンブルッカー自身もその手伝いをさせられたことがあったかもしれない。
また、アウエンブルッカーは音楽好きでもあり、共鳴の原理もよく理解していた。本業に趣味が役立ったわけである。頭の中にある知識を全く別のところに応用するというこのような行為こそ、人間に備わった知恵と言えるだろう。
ちなみに、この打診という言葉は現在、医学とは関係ない分野でも使われており、「政府、経済界に協力を打診」という風に使われているが、正しくは上記のように“とりあえず説明して相手の反応を探ること”であり、「寄付の打診があった」というような“要請”の意味に用いるのは誤用である。注意するように。

『聴診器の発明』
http://mailsrv.nara-edu.ac.jp/~morimoto/com121.htm

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