国語

本歌取り? それとも盗作?

2014年4月24日 19:52

和歌には、古い歌の語句や趣向等を取り入れて、新しい歌を創作する「本歌取り」という手法がある。とはいえ本歌取りというより盗作に近いとされる作品も少なくない。例えば、『百人一首』では、

「浅茅生(あさじう)の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき」
訳/まばらに茅(ちがや)が生える、篠竹の茂る野原※1。その「しの」ではないですが、これ以上忍びきれません。どうしてこんなにも恋しいのでしょう。
<源等(みなもとのひとし)作>

「み吉野の 山の秋風 小夜更けて ふるさと寒く 衣うつなり」
訳/吉野山の秋風が夜に吹いている。旧都には寒々と砧(きぬた)の音が聞こえてくる。※2
<飛鳥井雅経(あすかいまさつね)作>

が盗作の疑いをかけられている。
もとになったとされているのは以下の作品だ。

「浅茅生の 小野の篠原 しのぶとも 人知るらめや いう人なしに」
訳/恋する気持ちを秘めていても、あの人は気づいてくれるだろうか? いや、だめだろう。思いを伝えてくれる人がいなくては。
<『古今集』 詠み人しらず>

「み吉野の 山の白雪 積もるらし、ふるさと寒く なりまさりなる」
訳/吉野山に白雪が降り積もったそうです。古都の里はいっそう寒くなるようです。
<坂上是則(さかのうえこれのり)作>

ちなみに飛鳥井雅経は鎌倉時代の和歌の理論書『八雲御抄』(やくもみしょう)で、「近き人の歌の詞を盗みとる事」の歌人の例に挙げられている。本歌取りと盗作を明確に分けるのは難しい。詠み手に盗作の意識があったかどうかは永遠の謎だ。

※1
【浅茅生(あさぢふ)の】
 「浅茅(あさぢ)」は、まばらに生えている茅(ちがや イネ科の植物)のこと
 で、「生(ふ)」は「生えている場所」。
 【小野の】
 「小」は接頭語で、言葉の調子を整えるために入れる。「小野」 は「野原」のこと。
 【篠原】
 細くて背の低い竹「篠竹」の生えている原っぱのことです。ここまでが序詞で「しのぶれど…」に掛かります。

※2
【み吉野の】=御吉野の
  吉野は、桜の名所として名高い今の奈良県吉野郡吉野町のこと。「み=御」は言葉の頭につける美称。天皇の離宮などがある高貴で美しいところであることをたたえる言葉。
【さ夜ふけて】=小夜ふけて
 「夜がふけて」という意味。「さ」は語感をととのえる接頭語。小さいという意味はない。
【ふるさと寒く】
 「ふるさと」は「いにしえの都があり、忘れさびれた場所」=「古里(ふるさと)」のことです。吉野には古代に離宮がありました。
【衣打つなり】
 「衣を打つ音が聞こえてくる」という意味。女性が夜にした仕事で、砧(きぬた)という石または木の台の上に衣を乗せ、柄のついた太い棒で衣を叩き、柔らかくして光沢を出しました。時代と地域によってさまざまな形があった。

江戸時代の百科事典「和漢三才図会」にある砧の挿絵。「枮」は木製のきぬたを表す。打つための道具・擣衣杵(とういしょ)を両手に持ち、綾巻という丸い棒に布を巻いて打つ。

「いろいろな砧の描かれた絵画とイラスト1」
「いろいろな砧の描かれた絵画とイラスト2」
砧の伝承
「本歌取りとは」
「参議等(さんぎひとし)|百人一首039番 百人一首ガイド(音声付き)」
「小倉百人一首 – 参議等」
「参議雅経(さんぎまさつね)|百人一首094番 百人一首ガイド(音声付き)」
「小倉百人一首 – 参議雅経」
本歌取りとは「坂上是則とは」
「八雲御抄とは」
近代デジタルライブラリー「八雲御抄・巻第六」274コマ・「近き人の歌の詞を盗みとる事」を参照
「八雲御抄」と順徳院の和歌活動

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