日本史

最古の漆製品をめぐる大きな謎

2014年10月21日 23:13

ウルシの木の樹液(※1)を塗ることで装飾性や強度を高めた漆器(しっき)は日本を代表する工芸品。英語では「Japan」と表記される。ヨーロッパでも人気が高く、かのマリー・アントワネットも「ダイヤより漆器が好き」と語ったという。
日本における最古の漆器は約1万2600年前の福井県若狭町にある鳥浜貝塚で発見されたクシ。ヤブツバキに赤い漆を塗ったものである。1万2600年前といえば、旧石器時代が終わり、縄文時代が始まったばかり。そのころに漆製品がつくられていたことは大きな謎となっている。そもそもウルシは日本に自生していない(※2)。従って、日本で独自に漆文化が始まったとは考えにくい。ところが、中国で発見された最古の漆製品は、浙江省で発見された約7600年前の弓であり、中国から漆文化が伝わったという説を裏付けるものがないである。
ちなみに、国内で2番目に古いとされる漆製品は北海道函館市にある垣ノ島B遺跡の墓で発見されたもので9000年前につくられたと考えられる。最古のものとは実に3600年分の開きがある。このことも謎を深めている。

※1 ウルシ(和名:漆)は、ウルシ科ウルシ属の落葉高木。ウルシの樹皮に傷をつけて、にじみ出てきた樹液を取り、主として木や竹製の器、家具の塗料として使う。10年もので1本の木から1年間で200グラム程度採れる。これは汁椀をわずか数個ほど作る量しかとれない。この塗料自体を、漆と呼ぶ。漆を塗った器、家具を漆器と呼ぶ。
生の樹液が皮膚に付くと、猛烈にかぶれる。これは、漆の主成分のウルシオールという樹脂分のせいである。ウルシオールは、フェノール系の物質。温度や湿度が高くなると、ウルシオール中に含まれている酵素(ラッカーゼという)が活性化し、空気中の水分から酸素を取り込み、ウルシオールとの酸化反応によって、科学的には網目構造の巨大な高分子を構成する。外見上では液体から固体へと変化する。この課程を「漆が乾く」という。漆の乾燥とは、水分が蒸発して乾くという現象でなく、酵素が高分子を作る現象である。
漆が乾くためには、酵素を活性化させるために必要な温度(25度程度)と湿度(75%程度)が必要となる。つまり、梅雨時の高温多湿の季節ほど酸化反応が促進するので、漆は早く乾燥する。漆の木から掻き採ったばかりの漆は乳白色の不透明な液で、空気に触れると次第に茶褐色から黒っぽく変色していく。
その漆に煤(すす)などを入れて黒漆にする。漆に硫化水銀を混ぜることで、朱漆ができあがる。この黒漆と朱漆の2色で多くの椀や鉢などが作られてきた。近年は緑や青の漆も出てきている。
ウルシの語源は「麗し(うるわし)」とも「潤し(うるおし)」ともいわれている。

※2 ウルシは帰化植物である。日本の自然環境では人間が保護しなければ、淘汰されてしまう。ただし、自生説を唱える学者もいる。

「マリー・アントワネット」
「「Japan」の由来は!?」
「ウルシ」
「ふくい歴史百景 鳥浜貝塚(とりはまかいづか)」
「北の縄文 – 遺跡紹介:垣ノ島A・B遺跡 – 北海道」
「漆の歴史」
「漆芸の歴史1:香川県漆芸研究所 」
「津軽塗・漆掻き – 傷付け(樹皮切込)〜漆採取 」

<前の記事【】 次の記事【】>